［驚かせちゃったかな？］不二周助

【前編】

不二周助　「あ…これ、もうすぐ使い切っちゃうな。そろそろスーパーへ買いに行かないと…」

白石蔵ノ介「ん？不二クン、スーパーに買い出し行くんか。よかったらついでにチーズ買ってきてくれへん？なんや小腹が空いてきてな…」

幸村精市　「俺も頼んでいいかな？焼き魚が食べたいんだけど…　　どの魚にするかは不二に任せるよ」

白石蔵ノ介「幸村クン、夕飯前に結構しっかり食べる気やなぁ…」

不二周助　「チーズに焼き魚だね。それじゃあ、ちょっと行ってきます」

不二周助　「…………」

千歳千里　「…柳、1つ聞きたいんやけど、俺らはなんで不二ば追いかけとると？」

柳蓮二　　「不二は同じ青学(せいがく)の貞治でさえ正確なデータが掴めていない選手だ。この合宿に乗じて情報を収集するのは当たり前だろう」

千歳千里　「そんなら柳が1人で追いかけたらよかたい。なんで俺まで…」

柳蓮二　　「同室のよしみと言うやつだ。それにもし見つかった場合、囮がいなければ天才、不二周助からは逃げ切れないだろう…」

千歳千里　「囮？今自分、囮って言うたと？」

柳蓮二　　「たわ言を抜かしている暇はない。急がなければ見失うぞ」

千歳千里　「しょんなか。そっちがそのつもりなら俺の方も好きにさせてもらうばい」

不二周助　「えーっと、チーズ売り場は…ここか。裂けるやつでいいかな…？そうだ、焼き魚も買わないと。任せるって言われたけど、幸村の好みくらい聞けばよかったなぁ」

柳蓮二　　「買ったのはチーズと魚…　奇妙な組み合わせだな。そのまま乗せて食べる、とかか…？洋風か…。　チーズと魚……どうも引っかかる……不二の好みというよりも確か……」

柳蓮二　　「何か秘密があるのかもしれないな。お前もそう思うだろう、千歳――　……いない？まさか逃げたのか…？」

千歳千里　「安心しなっせ、柳。俺は俺んやり方で、不二の動向ば探ってたんよ。ひょっとしたらあいつのデータが取れるかも――」

柳蓮二　　「…！」

千歳千里　「いきなり変な顔ばしてどげんしたと？まさか俺に先越されて悔しいとか…」

不二周助　「随分楽しそうだね。キミたちも買い物？」

千歳千里　「ふ、不二！？いつの間に後ろに！？」

不二周助　「ふふ、驚かせちゃったかな？見慣れた姿が見えたから声をかけたんだけど…　あれ？2人ともカゴを持ってないね。もしかして買い出しに来たわけじゃなくて　何か別の目的があったとか…？」

柳蓮二　　「あ、いや俺たちは…」

千歳千里　「ちょ、ちょっとお前の背中ば追いかけて歩きよっただけで――」

柳蓮二　　「待て。余計なことを言うな　　それより不二…お前は一体何の買い出しに来たんだ？」

不二周助　「あぁ、僕は――　お気に入りの調味料、買いに来たんだ」

柳蓮二　　「まさか…それは多くの人間が悶絶したと言う超激辛調味料(デスソース)」

不二周助　「魔法みたいにどんな料理も美味しくなるんだよ。味の1つ1つが引き立つって言うのかな…　もちろんこの辛さも魅力なんだけどね」

不二周助　「いっぱい買うから、キミたちにも分けてあげるよ。ぜひ堪能してもらいたいな」

柳蓮二　　「いや、俺は遠慮しておく。失礼する」

千歳千里　「あっ、柳…！本当に俺ば囮にして逃げよったな…！　不二、『デスソース』は独り占めしてよかばい。そんじゃあね」

不二周助　「あれ…2人とも行っちゃった　『デスソース』のこと、みんななんであんなに嫌がるのかなぁ？こんなに美味しいのに…絶対損してるよ」

【後編】

不二周助　「……うん、この本に載ってるレシピなら僕でも簡単に作れそうだ。料理に買ってきた『デスソース』をたっぷりかけたら、きっとみんなも喜んで食べてくれるだろうなぁ」

不二周助　「さて、返却する前にちゃんとレシピをメモしておかないと……ん？」

白石蔵ノ介「うぅーん………金ちゃん……、それはぁ……食べたら……アカンやつや…」

幸村精市　「…みんな……あと10周くらいはいけそう…だね…すぅ……」

不二周助　「ふふ…2人とももう寝ちゃったんだ。ここで作業してたら迷惑になりそうだね。…図書館にでも行こうかな」

不二周助　「『春はあけぼの。やうやう白くなりゆく……』枕草子…懐かしいな。その内、原書表記で通して読んでみようか」

不二周助　「そんな風に時間が作れるのは合宿が終わってからになりそうだけど…」

不二周助　「ふう…図書館に来ると、つい色んな本に手を出しちゃうな。レシピは書き写せたし、もうそろそろ部屋に――」

柳生比呂士「――その点はミステリーが優れているでしょう。読みながら自分も主人公と共に謎を解いていく過程の面白さは希有な物です」

日吉若　　「俺としてはあえて謎を解かない楽しさもあると思いますけどね。七不思議だとか、怪談だとか…」

不二周助　「やあ。少し聞こえたけど…怖そうな話をしているみたいだね」

柳生比呂士「不二くん…うるさくしてしまったでしょうか？申し訳ありません」

不二周助　「いや、2人が盛り上がってたみたいで気になったんだ。せっかくだし、僕も仲間に入れてもらおうかな」

日吉若　　「不二さんも怪談とかホラーとかそういうの好きなんですか？」

不二周助　「うーん、そうだね…興味があるって感じかな？前に『雨月物語』って古典文学を読んだら面白かったからさ」

日吉若　　「あぁ、怪異小説の原点とも言える作品ですね。江戸時代あたりに書かれたとか…」

不二周助　「幽霊や妖怪…そして、人の怨念ほど恐ろしいものはないってゾクゾクしたよ」

柳生比呂士「私にとっては未知のジャンルですが…話を聞いているとなかなか面白そうですね」

日吉若　　「…せっかくですし、本格的に怪談でもしませんか？ロウソクでも灯せば雰囲気が出ると思うんです」

不二周助　「ふふ、いいかもね。頼りない明かりの中で怖い話をするなんて百物語みたいでさ」

日吉若　　「じゃ、俺ロウソク取ってきます。ちょっと待ってて下さい」

柳生比呂士「これはなかなか…明かり1つでこうも場所の印象が変わるとは…」

不二周助　「うん、でも思っていたより気味が悪いね。夜の図書館でロウソクだけってさ…」

不二周助　「後ろを振り返ったら最後、幽霊と目が合ったりしそうだよね……　……想像してみたらゾッとしちゃったよ……」

柳生比呂士「ゆ、幽霊など非科学的な…。怪談には興味がありますが、存在を信じる気にはなれませんね」

日吉若　　「ま、まあ、怖いって人はすぐ抜けてもらっていいですよ。俺はこの程度、平気ですけど」

不二周助　「あ、後ろ…！」

日吉若　　「っ！？な、なんですか…！？何かいるんですか！？」

不二周助　「あぁ、ごめん、幽霊かと……カーテンが揺れてただけだった。勘違いで良かった…」

日吉若　　「お、驚かせないで下さいよ…。もう始めますからね。最初ですから軽めのものからいきますけど……」

日吉若　　「同室の切原が忍足さんから聞いた話なんですけど、ここの合宿所、どうやら本当に幽霊が出るらしいんですよ…」

柳生比呂士「ふむ、身近な場所での話ですか。初耳ですがこれは怖――じゃなくて、興味深いですね…」

日吉若　　「最初はよくある噂話の類いだと思ってたんです。けど…切原のやつが夜中に見てしまったらしいんです。『脚はどこだ…腕はどこだ…』ってうめきながらうごめく影を…！」

不二周助　「ねぇ、もしかしてだけどその幽霊って…　こんな顔してるんじゃないかな…」

日吉・柳生「うわあぁああぁあああぁぁああ！？」

不二周助　「ごめんごめん、驚いた？このお面よくできてるでしょ？」

柳生比呂士「何を考えてるんですか、あなたは！！」

不二周助　「ふふ、なんだか2人の驚く顔が見たくなっちゃってさ。最高のリアクションをありがとう」

日吉若　　「ってことは…さっき怖がってたのも演技だったんですか！？」

不二周助　「さあ、どうだろうね？おっと…そろそろ部屋に戻って寝る時間だ。話に混ぜてくれてありがとう」

不二周助　「キミたちも早く戻らないと、今度こそ本物の幽霊が出るかもよ？じゃ…おやすみ」

柳生比呂士「あれだけ人を驚かせておいて、涼しい顔で帰って行きましたね…」

日吉若　　「青学(せいがく)の天才、不二周助…やはり恐ろしい人だ……」