［見守りたい後輩］入江奏多

【前編】

入江奏多　「えーっと、買わなきゃいけないのはガットとリストバンドとタオル、と…　結構荷物になりそうだね」

徳川カズヤ「それと、鬼さんができればグリップテープを頼みたいと」

入江奏多　「了解。鬼も自分の練習だけじゃなくて中学生の面倒も見ているみたいだし…　お使いくらいはしてあげないとね」

入江奏多　「でも…彼が目をかけたくなるような選手が中学生の中にいるとはね　…本当に今年の合宿は面白くなってきた」

徳川カズヤ「はい…そうですね」

入江奏多　「厳しい環境ではあるけれど…彼らもきっと強くなるんだろうね。昔のキミのように」

徳川カズヤ「…ええ。俺も負けるわけにはいきません」

入江奏多　「ふふっ…　どうやらいい影響を受けているみたいだ　特にあの１年生に……かな」

徳川カズヤ「何か言いましたか？」

入江奏多　「ううん、なんでもない。…ちょっとした独り言だよ　それじゃ、忘れないようにまずは頼まれたグリップテープから買おうか」

カシャッ！

財前光　　「……」

徳川カズヤ「あれは中学生の…」

入江奏多　「なにか写真を撮ってるみたいだ。…徳川くん、先に行ってもらっていいかな」

徳川カズヤ「構いませんが…　入江さんはどうするんですか？」

入江奏多　「たまには中学生と交流しようと思ってね」

財前光　　「変な形の雲撮れた…　これはブログにアップせな」

入江奏多　「キミ、確か財前くんだったかな？」

財前光　　「え？あぁ、はい」

入江奏多　「その写真…　へえ、風景を撮ってたんだね」

カシャッ！

財前光　　「あー、こっちのがええな。さっきよりオモロイわ。あ、すんません。なんか言いました？」

入江奏多　「えーと…そう、その写真、よければ見せてくれないかな」

財前光　　「え、なんでですか？」

入江奏多　「ボクも写真に興味があってね。キミの作品を見てみたいと思って」

財前光　　「ただのブログ用っスけど…」

入江奏多　「！　この写真…　モチーフは空だね！？」

財前光　　「はあ、まあ、空というか雲というか…」

入江奏多　「この構図、色合い、光度、それをとっても素晴らしいよ！」

財前光　　「えっ…」

入江奏多　「モチーフの選び方といい、キミの写真にはセンスを感じる。ああ、どうしてだろう…。この写真を見ているとこう、胸が熱くなってくるんだ…うぅ…」

財前光　　「はあ…？もしかして泣いてます？」

入江奏多　「これが泣かずにいられるか！ボクは今、キミという才能を前にして、かつてない感動の嵐を体験している…！！」

入江奏多　「…………　…なーんてね。どうだった、今の演技？」

財前光　　「なんや…演技っスか。あんまり面白くないっていうか、若干スベってた気がしますし」

入江奏多　「キミさ…　ボクの演技にケチつけるなんて、なかなかいい度胸してるじゃないか」

財前光　　「えっ、ちょ…肩掴む力強っ…！？急に何するんスか」

入江奏多　「ふふふ…」

徳川カズヤ「あの…入江さん。買い出し終わりました。これ、レシートです」

入江奏多　「！おっと、徳川くん」

財前光　　「…………」

徳川カズヤ「彼、若干顔が青いように見えますが…一体何を話してたんですか？」

入江奏多　「ちょっとした世間話をしただけだよ。ね？　そうそう、写真が素晴らしいのは本当だよ。いいものを見せてくれてありがとう」

財前光　　「じゃあ、どこからどこまでが演技…」

徳川カズヤ「入江さん…あまり中学生を困らせないであげてください」

入江奏多　「そんなつもりはないんだけどな。ふふ」

入江奏多　「さ、行こうか徳川くん。時間の節約にもなるし、帰りはジョギングしながらにしようか」

【後編】